【校長室】「俺、勇者になります!」(演劇部秋季演劇祭)
9月13日(金)から15日(日)の3日間、三郷市の鷹野文化センターにて東部地区越谷市以南の15校が参加して東部南ブロック秋季演劇祭が行われ、本校演劇部が出演しました。
この大会は、各校の1,2年生が参加する新人大会のような位置付けで、埼玉県を11のブロックに分け、各ブロックの優秀な作品が地区大会(東部南ブロックは草加フェア)に進出し、草加フェアで最も優秀な評価を受けた1校が東部地区代表として彩の国さいたま芸術劇場で行われる埼玉県高等学校総合文化祭(演劇祭)に出場するものです。そして、埼玉県高等学校総合文化祭での最優秀作品が来年度の全国高等学校総合文化祭(文化部のインターハイ)に埼玉県代表として出場権を獲得するレギュレーションとなっています。
本校演劇部は大会2日目の9月14日(土)の午後4時からの上演開始であったため、同日午後に行われたPTA理事会終了後に会場に駆け付けると、ちょうど本校生徒たちが控室から舞台に向かうところで、私と目が合った生徒が「こんにちは」と笑顔であいさつをしてくれました。自分たちの出演を直後に控えた生徒たちは、適度にリラックスした雰囲気で、過度に緊張することなく自然体で演じられそうな予感がしました。
上演5分前を知らせるブザーが鳴り、徐々に会場が静寂に包まれる中、午後4時ちょうどに緞帳が上がり、いよいよ本校演劇部の演目「俺、勇者になります!」が始まると、舞台上のキャストたちは演者としてのスイッチが入り、それぞれのキャストになり切って個性あふれる役柄を熱演していました。
ストーリーは、とある高校の担任(灰田勤)が2者面談で2週間ぶりに登校した生徒(内藤守)に対して卒業後の進路について指導する場面から始まりました。何をやっても結果が出ずに将来を見通せなかった生徒が突然「俺、勇者になります!」と宣言し、行方不明だったこの2週間で経験した異世界での成功体験(異世界の国の姫を守るために勇者の剣で次々とモンスターを倒し、勇者として姫とともに異世界で暮らしていく)を熱く語りはじめ、その非現実的な語りに担任は頭を抱えてしまいます。
困った担任が生徒をたしなめていると、なんと2人は生徒が語っていた異世界へと入り込んでしまうのです。生徒は異世界で内藤という名前を名乗ったことから「ナイト様」と呼ばれ、その国の姫に慕われています。一方担任は、灰田と名乗ったことから姫に「配下」と呼ばれ、生徒の家臣となってしまいます。異世界では、生徒が言っていたとおり、異世界を支配しようと暗躍する魔王から異世界の国の姫を守るために魔王と戦うこととなります。
強大な魔王を倒すのは容易ではなく、姫の魔法を借りながら、ナイト様(生徒)が配下(担任)と力を合わせて魔王に立ち向かい、見事に魔王を倒すことに成功します。
魔王を倒したことで生徒と担任は異世界に残ることができなくなり、やむなく姫と別れて現実の世界に戻って再び2者面談のシーンになったところで、それまで結果の出なかった生徒にずっと寄り添い親身になって支えてくれた担任に対して生徒が心を開き、担任の思いに応えるべく地道に頑張ることを約束しました。
すると、面談のために担任が呼び出していた生徒の母親が登場し、衝撃の発言をするのです。なんと、生徒と担任が入り込んだ異世界は、バーチャル空間を利用したデジタル学習ソフトの開発を手掛ける母親が作り出したもので、不出来な息子を立ち直らせるために作為的に息子たちを異世界に送り込んだのでした。しかも、生徒が命を懸けて守りプロポーズまでした異世界の国の姫の正体は母親であり、すべてが母親の思惑どおりになっていたのでした。そうした事実を知った生徒と担任は愕然としますが、それでも生徒は異世界での体験を糧に立ち直り、前向きに自己実現を目指していくというハッピーエンドのストーリーでした。
すべての演技が終わり緞帳がゆっくりと降り始めると、会場からは大きな拍手が沸き起こり、本校演劇部の公演を讃えてくれました。他校の保護者や生徒たちも多数観劇していましたが、一様に笑顔が見られたので、本校生徒たちの演技に込めたメッセージがしっかりと届いたのだと思います。
今回の公演を観劇して驚いたのは、原作が本校生徒によるものであるということでした。一般的に高校演劇部の公演は、プロの原作者が書いた脚本を購入して自分たちなりにアレンジを加えて作品を作り上げるのですが、本校演劇部は約50分間にわたるストーリーのすべてを自分たちで創造して作品に落とし込んでいることは、高校生ではかなりハイレベルなことだと感心しました。しかも、学園もののテーマとバーチャルなRPGを掛け合わせたストーリーに、デジタル社会に生きる現代の若者らしさが感じられ、観る者に共感を与えるとても面白い発想だと感じました。
中でも秀逸だったのは、担任や生徒が面談のシーンで口にするセリフの数々が、普段教師をしている私たちにとっての「あるある」で、現実の教室から本当に聞こえてきそうなセリフであったため、教師である私にとっては過去に経験したシーンが頭の中で鮮明に蘇り没入感はとても深いものとなりました。また、どんな時も生徒のすべてを受け止めてともに歩んでく担任の姿に、生徒が求める理想の教師像の原点を再確認させられたような気がしました。原作の脚本を描いた生徒たちが、いかに普段から先生たちの様子を観察しているのかが良く伝わる素晴らしい作品であったと感じました。
キャストたちの演技もそれぞれの役柄になり切り、視線やアクション、声の強弱や表情など豊かな表現力で観客を魅了し、ストーリーの面白さを演出する見事な演技でした。
また、舞台に立ったキャストは生徒、担任、姫&母親、魔王&モンスターの4名でしたが、舞台監督、照明、音響、演出など裏方としてキャストを支えたメンバーたちの働きも効果的で、チームとして一つの作品を作り上げていることがしっかりと伝わり、自然と引き込まれる素敵な上演となりました。
文化祭の開会式で見せてくれたショートストーリーもとても面白い作品でしたが、今回は大会での発表作品として稽古を重ねてきた50分の大作を観劇し、生徒たちの創造力や表現力に感動するとともに、今後の成長に無限の可能性を感じました。そしてまた、次の舞台を早く見たいという気持ちになりました。演劇部員たちの今後の活躍をしっかりと見守っていきたいと思います。
会場には、部員たちのご家族の皆さまにもご観覧に駆け付けていただき誠にありがとうございました。皆さまのご声援が部員たちにとって大きな勇気となり、思い切った演技を披露することができたのだと思います。今後とも部員たちの活動をあたたかく見守っていただければ幸甚に存じます。
頑張れ越南生!頑張れ演劇部!
追伸
9月16日(月)に大会結果の連絡が届き、本校演劇部の演目「俺、勇者になります!」が奨励賞(上位8校)に選出され、11月に実施される草加フェアへの出場が確定しました。脚本を自ら手掛け、協働しながら日々稽古を積み重ねた成果が審査員の心に届いたのだと思います。部員たちには、自分たちの演技に更に磨きをかけて草加フェアで大きな「南の風」を吹かしてほしいと願います。ご声援ありがとうございました。