校長室より

「桜」1年ぶりの帰校(美術部昨年度県展高校生最優秀作品)

 本日6月25日(水)、本校昨年度卒業生の豊島礼芽さん(美術部)が描いた絵画作品「桜」が、約1年ぶりに本校に帰校しました。

 この作品は、プロを含めた一般芸術家が多く出展する県内最高峰の美術展覧会である昨年度の「県展」において、高校生奨励賞(高校生世代の作品で最も優れた作品賞)を獲得し、県教育委員会からの依頼を受けて、昨年7月から1年間、県教育委員会の顔とも言える県庁の教育委員会室に展示されていたものです。

 豊島さんは入学直後からこの作品を手掛け、2年以上の歳月を費やして、この1点の作品に全身全霊を賭けて描いた高校美術部活動の集大成であり、ディテールに拘り抜いて細部まで丁寧かつ繊細に描くことで、美しさと迫力の双方を兼ね備えたリアリティーの高い作品を追求するとともに、自然な形で自分の感情や思考を作品に落とし込みながら完成度の高い作品に仕上げたことを高く評価していただいたものとなっています。

 作品の制作にあたっては、今どきの生徒らしく、自分で撮影した写真をスマートフォンやタブレットなどの画面上で拡大して、細かな部分を確認しながら描いていたことが印象的で、単に仕事や生活、教育活動などの利便性や効率性の向上のためだけでなく、アナログが重視されると思われる芸術の分野にもICTの普及は大きな影響を与えているのだと感じました。

 ただ一方で、作者である豊島さんの中では、この作品はいまだ未完成のものであり、高校生奨励賞を受賞したことで昨年5月にテレ玉の取材を受けた際にも、機会があれば、更に描き足していきたいとも言っていました。その言葉に、バルセロナ(スペイン)のシンボルとも言われ、着工後140年以上を経過してもなお未完成であるアントニオ・ガウディ設計のサグラダ・ファミリアを思い浮かべながら、豊島さんがディテールに拘り、作品を深く追求する探究心を強く感じたことを今でもはっきりと記憶しています。

 私も、「県展」を見に行って、実際の作品を目の前にしたときに、作品から放たれる圧倒的な迫力に思わず飲み込まれて、釘付けになってしまうほど感情を揺さぶられたことを思い出します。もちろん、県内最高峰の展覧会だけあって、他の作品の中にも同様に心揺さぶられるような素晴らしい作品がいくつか見受けられましたが、この「桜」を描いたのが本校生徒の豊島さんであったこともあり、私の中では、数多展示された作品の中で、この作品が最も印象深く目に焼き付いています。

 巷では、よく「スポーツには、人の心を動かす力がある」などと言われます。スポーツを愛し、スポーツの世界で生きてきた私にとって、とても共感できる素敵なフレーズではありますが、一方で、かつて自分がかかわってきた生徒たちが目をキラキラさせながら文化的活動に情熱を傾ける姿を見守っているうちに、そうした情動はスポーツだけでなく、情熱を持って直向きに挑戦し続けるあらゆる活動に同様のことが言えるのであって、こうした文化的活動も、観る人の心を動かす力がある奥の深い活動なのだと感じています。

 素人ながらの浅はかな想いではありますが、そうした意味でも、この作品は一見の価値があるものだと思います。

 本校は、美術部だけでなく、吹奏楽部、書道部、写真部、演劇部、放送部など、多くの文化部でたくさんの生徒たちがまさに青春を賭した活動に取り組んでいます。スポーツと比較すると、一見派手さの少ない活動ですが、そこに賭ける生徒たちの想いは運動部活動の部員たちと同様に熱く、本物です。こうして、努力の成果として皆さんに目に留まり、より多くの皆さんに見ていただけることが、活動に取り組む生徒たちにとって何よりのご褒美なのだと強く感じます。

 文化部活動に所属する生徒の皆さんには、こうした作品に刺激を受けて、より一層情熱を持ってそれぞれが志す活動に打ち込んでほしいと願います。活動に没頭すればするほど、その活動の奥深さを学ぶことができ、真摯に奥深さを追求する日々の積み重ねが皆さんの自己肯定感を高め、やがて眩しいほどの輝きを放つことにつながるはずです。次は、あなたの作品が輝きを放つ番です。そうした日を迎えられることを心から信じています。

 「桜」は、このあとしばらくの間、校内に展示したいと考えています。皆さまも、本校にご来校の際には、是非ご鑑賞いただければ幸甚でございます。

 頑張れ、越南生!頑張れ、美術部!